九重連山で必ず行くのは「大船山」と「久住山」の2つ。1日で回るのは大変なので、最初はテントを持っていこうと考えていた。しかし、しばらく天気の悪い日が続くので、その後晴れたとしてもテン場は濡れているかもしれない。ぐちゃぐちゃになるのは嫌だなあ。
 念の為、山小屋に電話をしてみた。法華院温泉山荘という、その名の通り温泉がある山荘である。
「もしもし、23日から1泊なんですけど、混み具合はどうですか?」
「大丈夫ですよ。」
「コロナも心配なので、お客さんがどれくらい集まって、一部屋にどれくらいの人が入りそうか教えてください。」
「ウチは基本的に個室になっていて、個室がいっぱいになったら大部屋に入っていただくようにしています。」
「えー?! 一人でも個室になるんですか!!」
「はい、そうなります。」
「それじゃ、安全ですね。お値段はいくらですか?」
「2食付きで1万円ですが、500円プラスで特別室になります。」
「特別室とは?」
「大船が見える大きな窓のある角部屋で、部屋にストーブがあります。」
「わかりました。せっかくなので特別室をお願いします。」
 というわけで、テントをやめて山荘に1泊することにした。スタートは23日火曜日。天気予報では月曜日から回復するようだが、1日遅らせれば道も乾くだろうという目論見があった。

 湧蓋山登山から3日が過ぎた22日午後、再び長者原駐車場にやってきた。長者原ビジターセンターで登山道の危険箇所をチェックし、タデ原湿原の遊歩道を少しだけ歩く。目の前の三俣山は霧氷で白く、夜のうちに溶けるわけもない。1日遅らせて正解だったと思う。(もちろん「きれいな霧氷の山を歩く方がよい。」という意見もわかる。これは好みの問題だ。)

リンク 長者原ビジターセンター  (登山前に必ず立ち寄りたい。)

前日夕方のタデ原湿原。

3月23日

 6時20分、駐車場を出発。はじめはタデ原湿原の木道を歩く。数頭の鹿が木道わきで食事中だったが、跳びはねて逃げていった。鶴見岳(21日)に続いて鹿を目撃し、ラッキーだ。これも、朝の一番乗りで歩いているご褒美だろう。他地方では朝の一番乗りが熊と遭遇するリスクもあるが、そんなストレスのない九州は良い。

木道を歩く。この先に鹿がいた。
登山道開始。

 ゆっくり歩いても10分足らずで木道は終わり、登山道が始まる。とはいえ、坊ガツルまでは三俣山の麓を時計回りに巻いていくだけ。急斜面も危険な場所もない。林間の緩やかな道を歩くだけだ。若干気になるのが、霜柱が異様に成長していること。この状態では寒い方が歩きやすい。道がドロドロになる前に通り抜けてしまいたいところである。

白っぽいのは、全て霜柱。
ざくざくして気持ちいいが、溶けないうちに歩き切りたい。
土砂崩れの危険地帯。
三俣山がきれいだ。

 8時、坊ガツルの湿原に到着。ここは、タデ湿原とともにラムサール条約指定の湿地帯である。ラムサール条約指定の湿地は日本に50ヶ所あるので、それ自体が珍しいわけではない。しかし、指定された湿地のひとつひとつが異なる植物相や生態系を持っており、指定されたことで保全保護活動が活性化するのは喜ばしい。

リンク ラムサール条約とは(環境省)

自分史上最大の霜柱かもしれない。
坊ガツル湿原。意外に乾いている。

 ここから大船山に向かいたいところだが、最初に法華院温泉山荘を目指す。山荘のスタッフさんから「出発する時に確認の電話をください。」と言われていたのだが、電話対応は7時から。ならば途中で電話をすれば良い話だが、auは圏外になってしまう。(悔しいが山ではdocomoに分がある。)仕方なく「出発しました。」という連絡を直接してくる。往復20分のロスだが仕方がない。
 山荘で「出発してます。(目の前にいるから当たり前。)今夜必ず泊まります。」と話し、再び大船山に向かって出発。10分ほど歩いて坊ガツルキャンプ場で休憩。キャンプ場は乾いた枯れ草が地面を覆っていて、濡れないだけでなく保温性も高いように見える。これはテントで良かったかと少しだけ後悔した。

山荘に立ち寄り、予約の確認。
坊ガツルキャンプ場には2組のテント。
大船山へ。

 大船山までの道は、所々別れ道になっていて、それぞれに赤いテープがついている。こういう場合は上に行けば合流するもので、あまり気にもせず最初に見つけたマークを辿って登った。やや狭くて「ここはどうもメインの道ではなさそう。」という場所もあったが、遭難することなく鞍部に出た。鞍部から山頂までは稜線を行くことになる。木の枝に貼りついた霧氷がきれいだ。しばらくは木の間を歩くが、最後はちょっとした岩場にくらいついて山頂に到着。時計を見ると10時を少し過ぎていた。天気が良く、これまで歩いてきた道と湿原、明日登ることになる九重の山々がきれいに見える。ここが今日の最高地点なので、「ここからは登りより下りが多い。」と思うと、気持ちにゆとりが出てくる。(だから楽勝であるという保証はなにひとつないのだが。)

斜面を登り切り、鞍部に出た。
立派な避難小屋発見。
霧氷が美しい。
もうすぐ山頂。急になってきた。
標識の左側は明日登る山たち。

 10時20分、山頂を出発、時間も早いので予定通り稜線を北に進み、平治岳に立ち寄ってから山荘に戻ることにする。一度鞍部に戻り、まずは北大船山に登り返す。この道はやや狭く、油断すると木の枝が目に刺さりそうで怖い。ほんとに目に刺さることはないだろうが、慎重に進む。振り返ると大船山の霧氷が陽に照らされて美しい。午後には霧氷も溶けるだろうから、この景色も見納めだ。自然、シャッターを切る回数も増える。

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大船山から下山開始。
綺麗だが、やや狭い。
何度も大船山を振り返る。
湿原の端に本日の宿が小さく見える。
再び狭い道。
下りはやや道が荒れている。

 北大船山からはゆるやかな下りがしばらく続き、その後斜面は急になる。ややえぐれた道の両脇には、少し緩んできた霜柱が歩く振動でさらさらと流れ落ちる。これが全て溶けたら大変だ。早めに通過できて良かった。

 11時30分、北大船山から200mほど下り「大戸越」という鞍部(峠?)に下り着いた。ここから平治岳へは再び200mの登り返し。標高では大船山に及ばないものの、本日1番の急登になる。(ここには2本の登山道があり、「登り専用」「下り専用」に分かれている。)幸いなことに南に面した斜面なので霜柱もなく、概ね道は乾いていた。
 40分ほどで平治岳に登頂。遠く北に由布岳の双耳峰が見える。予定では明後日、あそこに登っているはずだ。南西にはこれから向かう坊ガツルの湿地が見える。いよいよ残りは下りだけになった。

くそー、かなりやられた。
平治岳に向かう。
こっちを行くんだな。(なぜか九州電力)
今日一番の急登。
大船山と140mしか差がない。この山域には似た高さの山が多い。

 帰りは「下り専用ルート」を通り、13時10分、大戸越に到着。林間の道を抜け、湿地の木道を歩き、14時15分に山荘に戻ってきた。かなり靴が汚れたが、天気もペースも順調であった。

下り専用道をそろりそろり。
坊ガツルが一望。
荒れているが、石が大きいので歩きやすい。
湿地に下りてきました。
山荘到着。外で靴をしっかり洗ってチェックイン。

 チェックインを済ませるとすぐに入浴。テントで寝る予定だという青年と湯船の中でしばらくおしゃべりをして、あとは部屋に籠る。本来なら談話室で他の登山者をビールでも飲みながら情報交換をするところだが、コロナを意識して部屋でお昼寝。(そもそも、談話室に誰もいなかった。)
 午後6時、夕食会場に行く。夕食を食べるお客さんは13人、ストーブを四角く取り囲み、全員が外を向いて食べるの光景は異様である。食事は山小屋としてはまずまず平均よりやや上だろう。ただ、ここまでスタッフ専用の道路があり、買い出しも自動車でいけるのだから、通常の山小屋より条件は良いはずだ。そう考えて「普通の山間の温泉旅館」というカテゴリーで見ると、平均よりやや下とも言える。まあこれは一般的に考えるとという話であり、毎日車の中でコンロひとつを使って命をつないでいる身には豪華であることに変わりはない。しかもおかわりもできる。
 隣のお姉さんが生ビールを注文していたので、釣られて我も700円の出費をする。山荘も宿泊客の大幅減少に苦しんでいるだろうから、少しでも協力したいものだ。(言い訳です。)

廊下のストーブが暖かい。
特別室なので、ストーブつき。(乱雑でスミマセン。)
夕食のメインは鳥肉とおでん。
本日の行程。(コンパスアプリの地図を使ってます。)
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