家を出て1ヶ月が過ぎ、九州シリーズもそろそろ終わりを迎えようとしている。ここまでくると、車中泊をしているのが日常で、家に帰ってからの生活がイメージできなくなる。帰るのがちょっと寂しい。

 前日に登山口までやってきて車中泊。ここは幹線道路沿いなので静かではないが、寝てしまえば問題はない。それに、立派なトイレもある。(でも、オフシーズンのためかトイレには鍵がかかっていて、その代わりに簡易トイレが3つ並んでいた。)焼きそばを炒めて食べて寝る。

まずまずのお天気。

 3月25日朝、6時に起きてラーメンを食べ、6時50分に出発。この時点で他に車はない。いつものように一番乗りで歩き出す。九州のあちこちに見られた野焼きの跡がここにもある。自分の地元でごく一部でしか見られない風習なので、これだけで異国感がある。緩やかな裾野の野原を15分ほど歩くと、トイレがある。ついさっき用をたしたばかりだが、最後のトイレなので一応利用する。ここからが登山道の本番。道は林の中に入っていく。
 8時少し前、遠くから「ドーン」という地響きのような音が聞こえた。そういえば久住山でも聞いた音だ。あれは何だろう。途中にあったベンチで水を飲みながら考えていたら、おじさんが一人登ってきたので聞いてみた。正体は自衛隊の演習場だった。大砲をぶっ放せる広い原野があるので、全国から集まり合同演習などもやっているという。とりあえず噴火や地殻変動ではないことがわかりホッとする。(こっちに向けて打つなよ。)

15分歩くと、最後のトイレ。
きれいな標識あり。
「合野越」。ここで別の登山道と合流する。ここからつづら折りの道になる。

 このおじさんは湯布院で飲み屋を経営する方で、コロナの影響をもろに受けているという。温泉に客は戻りつつあるものの、回復しているのは高級旅館。高級旅館に泊まる人はなかなか外に出てこないので、温泉街の飲食店は閑古鳥であること。非常事態宣言の出ていた福岡と違い、大分県には給付金がないこと。狭い飲み屋で感染対策を完璧にすると2~3人しか入れることができず、商売にならないことなどを聞いた。仕事をリタイアして気ままに車中泊の旅をする自分は、コロナといってもほとんど影響を受けていない。収入は変わらず(てか、そもそも無収入だし)外に出ない分出費も減るから生活が苦しくなるわけでもない。10万円の給付金だって、ほんとは必要ないくらいだ。(だから、10万円分は地元でどんどんテイクアウトして使った。)仕事をしていた時だって、自分は公立学校の教員だったので、学校が閉鎖されても給料が減ることもない。自分にとってコロナはリアルな問題ではないのだ。そして、多くの公務員(議員を含む)が同じ感覚ではないかと思う。実際に飲食業を営んでいる人の苦しさを、自分はどこまで実感できるだろうか。

地元のおじさんからいろいろな話を聞く。
湯布院の町が見える。

 おじさんがもうひとつ教えてくれたのが、由布岳の整備をしているのが「スーパーボランティア尾畠さん」だということ。有名になった今も、毎週のように由布岳の整備をしているという。そういえば、この登山道のあちこちに設置された木の階段は、縁にロープがねじ止めされていて滑り止めになっている。ずいぶん丁寧な作業をしているなあと思っていた。確かにあの人なら徹底的にやってくれそうだと、テレビで何回も見た尾畠さんの顔を思い出す。もし、今日来てくれたら、絶対にあいさつして一緒に写真を撮る。(でも、残念ながら会えなかった。)

だんだん険しくなってきた。
岩が大きくなってくる。
もうすぐ鞍部に。

 いろいろと話してくれるおじさんの後ろをついてどんどん高度を上げる。やがて斜面が急になると、地図上ではノコギリの歯のようなつづら折りになる。木々もまばらになり、眺望が開ける。(景色がいいと、若干怖い。)

 8時50分、「マタエ」という火口の縁に来た。由布岳は猫の耳のような双耳峰で、マタエはその間である。右に行けば比較的楽な東峰、左は険しい西峰でこちらが最高峰となる。一緒だったおじさんは「僕は体が小さいから、あっちには行かないことにしてる。」と、東峰に登っていった。険しい崖は怖いなあどうしようかなあと迷いながら、しばらく様子を見ることにする。少し待っていたら男性が一人やってきて西峰に向かったので、その後をついていくことにした。もちろんダメだと思ったらその場で戻る気満々である。

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「マタエ」でしばし思案する。西峰、大丈夫かな。

 最初から急な鎖場で、しかも景色がよく湯布院の街までしっかり見えるから恐怖感が増す。ここは「下見ないぞ。上しか見ないぞ。」と言い聞かせて岩にへばりつく。あまりべったりつくと逆に危険だということを本で読んだので、意識して体を真っ直ぐにして・・でも怖い。
 自分にとっては垂直にしか見えないような岩場を鎖を頼りに登ったり、靴の半分も乗らない岩の突起を使ってトラバースしたり、それぞれの距離は数mと短いものの、かなり緊張する場所もあった。1ヶ月に及ぶ九州シリーズの中で、間違いなくここが一番危険な場所だ。百名山でなく、ガイドブックにも「鎖場のある岩場を慎重に往復し、、」くらいしか書いてないので甘く見ていた。
 それでも何とか危険箇所を乗り切り、9時20分に西峰に登頂した。リュックをマタエにデポしたのは正解だった。ポケットにねじ込んだペットボトルを出して一息つき、しっかり気持ちを整えて下山開始。下りは下りで足元の様子が見えず、登りと同じ30分かけて何とかマタエに戻れた。先に下りて、東峰に登り始めていた男性がずっとこちらを見てくれていた。きっと「あいつ、大丈夫かな?」と心配だったのだろう。マタエから少し上にいる男性に深々とお辞儀をして、今度は東峰に向かう。東峰ルートは危険な場所はない。しかし、遠くから見ると、同じ大きさの2つの耳が並んでいるのが由布岳である。東峰もかなり急な斜面をジグザグに登って行く。

西峰1 いきなり急だぞ。
西峰2 あの岩登るの?!
西峰3 ここは何とかなりそう。
西峰4 ????? どうするの?
命がけで登頂したという気分。
黄色のコースを登ります。(東峰中腹から撮影)

 10時20分、東峰に登頂。先に休んでいた男性に「最後まで見届けていただき、ありがとうございました。」と改めてお礼を言う。宮崎から来ていた男性によれば、「傾山も大崩山も険しいけど、岩の危険度は由布岳の方が上かも。」ということ。それを聞くと、あっちも行けたかなと少し思う。(印象・感想には個人差があります。)

東峰に着いた。別府湾も見える。
休憩しながら西峰の登山者を見学。
元気注入!!

 しばらくの間西峰を見ていると、何人か登って行く姿が見える。リュックなしで登る人もいれば、大きなリュックでストックを手に持ったまま立ち止まりもせず、鎖をつかんでスイスイ登る人もいる。これが経験の差というものなのだろう。(おそらく今の自分ならリュックを背負って登れない。)

 最後にちょっと無理をしてしまったが、とりあえず生きて帰れそうだ。(また大袈裟な・・)危険な場所でないところの怪我が意外に多いという話も聞く。下りは慎重に慎重に。それでも危険地帯を終えて緩んだ気持ちはなかなか戻らない。安堵感でウキウキして下山する。
 13時ちょうどに駐車場に戻ってきた。これから福岡県に向かって車を走らせる。1ヶ月前に九州上陸した最初の県に、ようやく戻ることになる。

これ、尾畠さん作かな。
これ、尾畠さんの道具かな。
ゴール近し。
生きて駐車場に戻る。
本日のコース。

 今回は、残念ながらスーパーボランティアの尾畠さんには会えなかった。(そもそも尾畠さんのホームグランドだって知らなかったし。)次回九州に来る時、ここの駐車場に何連泊もして、尾畠さんに会えるまで登り続けるというのも楽しそうだ。(まあ、やらないだろうとは思うが。)

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