前日、宿泊先である道の駅に向かう途中から、大粒の雨が落ちてきた。天気予報では明日は晴れだから登山に問題はないのかもしれない。しかし、明日の小秀山はガイドブックによれば中級となっていて、しかも「7mの垂直の岩場にはロープも鎖もないが、つかむところがあるので慎重に登れば・・」という記述がある。自分の一番苦手なパターンだ。しかも雨で岩場が濡れていたらどうなるんだろ。晴れていても登らないという選択肢もアリかな。 そして当日は予報通りきちんと晴れた。とりあえず登山口まで行ってみよう。いつもはなるべく早く出発なのだが、ぎりぎりまでスタートを遅らせれば、少しは乾くかもしれない。何ならスタートしても途中で戻れば良いんだよ。そう言い聞かせて登山口である乙女渓谷のキャンプ場に到着した。

 駐車場に車はなく、季節柄キャンプ場も閉鎖しているようだ。人の気配のない登山口でちょっとだけ待機したものの、じっと待つという行為も苦手だ。結局準備をして7時にスタート。(これでもいつもより遅い)

誰もいない(結局この日は誰とも会わず)
7時スタート

 最初は一ノ沢という渓谷沿いの遊歩道を歩くのだが、木道と階段がいい具合に苔むしていて雰囲気は良い。雰囲気は良いのだか濡れた苔はヌルヌルと滑り、バランスを崩すと足払いを喰らいそうになる。ストックのゴムキャップもヌルリと滑り、ほとんど体のバランスだけで進む状態。それが延々と続くので、予想外に体力を削られしかも時間がかかった。

ヌルヌル状態

 1時間ほど木道と格闘した後、避難小屋が現れ、そこから普通の登山道になった。少し歩くと夫婦滝という落差のある滝が出てくる。ここに「ここから先は大変だぞ大丈夫か」の看板があって緊張する。確かにここから道はやや荒れて急になる。夫婦滝の滝壺から回って滝の上端まで登っていくのだ。木道を脱したことで足元はずいぶん安定したが、脚に直接くる疲労が切ない。

夫婦滝

 そして、ほぼ垂直の岩場が顔を出した。おおこれのことか。あれ?迂回路ある。そんなこと書いてなかったよなあ。ほんとに焦らせちゃって・・・。ところが岩壁(個人の感覚)を2つクリアした先に、迂回路のないほんとの壁がそこにあった。けっこう泣きが入ったが、幸いなことに掴める木の根があるので、滑落の恐れはなさそうだ。

ここ登るんですね

 最難関の壁を登り、少し歩くと三ノ沢登山道との合流する。ここからはしばらく尾根伝いに急登を登る。そして写真に出ていた兜岩に到着。写真では岩の上にお姉さんが腰掛けていたが、自分には何故その図が成立するのか理解できない場所である。当然ながらそんな暴挙にでることもなく先に進む。さらに登ると平坦地に出た。ここから稜線という言い方が適当だろうか。下っては登り返しを数回繰り返すことになる。その最初の鞍部でかなりの残雪が出てきた。所々踏み抜いたり、コースを見失ったりしながら2番目のピークに登ったところで、本物の山頂が見えた。あの避難小屋のある場所だな。目測で残り30分から1時間というところだろうか。

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兜岩
稜線に出た感じ

 しかし、時計を見ると既に11時になっている。ここで少し迷った。基本的にソロ登山の自分は、何重にもセーフティーネットを設けている。そのひとつが「11時を過ぎたら先に進まない」ということ。もちろん、往復3時間程度だったら午後1時に出発もあるだろう。でも、小秀山に関しては既に5時間かけてまだ山頂に届いていない。何事もなければまだまだ十分な時間があるが、ひとつトラブルが出れば暗くなるかもしれない。あーどうしよう。ここまで来て撤退なんて、またあの苦しい急登をやるのは嫌だなあ。でも、ここで撤退しておくというのも貴重な経験かもしれない。大いに悩む。

 結局、山頂を目指した。理由は後付けになるが、「もし6時に出発してたらまだ10時だよなあ」(理由になってないぞ!ばかっ!)「たしか三ノ沢の最後は長い林道だよなあ。少々暗くても歩けるかなあ」(見たことない道だろうが!ばかっ!)ということ。行くと決めたからには何とか12時には着きたい。そうすれば往路が5時間で復路も5時間かかってもまだ暗くない。ここからペースを上げる。

予想外に歩きにくい

 11時30分、避難小屋を通過して山頂に出た。これなら帰りも行けるだろうと安堵する。そして、山頂に来て初めて御嶽山が目の前にあることを知った。まだ4月の登山シーズン前の御嶽山は、雪を纏って神秘的なまでに美しい。誰もいない山頂でうおーと叫んでしまった。この風景を見るためにこの山に登る価値があると確信する。これは、いつまでも見ていられる荘厳な姿だ。

11:30 山頂

 御嶽山が噴火したのは2014年だから、早いもので9年になる。2014年なら自分はまだ仕事をしていて、山登りという趣味も「老後に向けて少しやってみようかな」と考え始めたばかりだった。あの時にニュースで見た被害にはかなり狼狽えたものだ。死者行方不明者あわせて63名という戦後最悪の火山災害となったその山も今は静かだ。いずれあそこにも登ってみようと思う。

 12時ちょうどに下山開始。帰りは岩の壁もヌルヌル木道もない三ノ沢口への道を下る。そこそこ急な斜面を何十回とジグザグに曲がりながら降りる。かなり単調な道だ。九十九折りという言葉があるが、本当に99回以上曲がったかもしれない。(後日地図でしっかりカウントしたら40回くらいでした)

 15時少し前に登山口まで降り立った。あとは多少の距離を残すものの、車も通る林道だ。日没まで戻れないという不安は全くなかった。(でも自分はきっと心配しすぎるくらいでちょうど良いバランスだろう)林道は林業の関係者が作業していた。邪魔にならないように作業の合間を待ったりしたが、他ではお目にかかれない重機の見学もかなり楽しめた。(伐採した気を丸ごとつかんで持ち上げて、スライドさせて枝を払って付属のチェンソーで同じ長さに切り揃えて積んでいくのだが、言葉で説明するの難しい)

 15時半、無事に駐車場に到着。雨の翌日で、しかも山頂まで時間がかかり不安だったが、行って良かったと思える山だった。

 今日は下呂温泉の旅館に泊まることにする。夜に知り合いとWEB会議があるので、部屋をきちんと予約した。直前に予約したためかなりのお手頃価格で、しかも料理も良く満足な宿だった。

下呂温泉みのり荘(料理お任せプランは飛騨牛コースでした)

 

全行程8時間30分でした
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