
3年前、ニペソツ山に登った。たっぷり12時間の行程は初心者の自分には厳しいもので、今にして思えばギリギリの状態だったなあと思う。それでも美しい三角の山の雄大さに感動したものだ。この時、山頂から遥か南に台状の山並みが目につき、それがウペペサンケ山という山であることを下山してから知った。ちょっと興味はあったものの、当時は300名山を基本にしていたのでパスした。パスはしたものの、少し前に登った石狩岳も良かったので、東大雪の山々に外れはないだろうという謎の自信だけはあった。
(因みに300名山を選んで登っているのは、有名な山なら登山道もしっかりしているし多少は人もいるだろうから安心だろいう理由)
そして3年が過ぎ、300名山には入っていないが良さそうな山たちも視野に入れての北海道上陸である。楽古岳、芽室岳、ウぺぺサンケあたりに登れたらいいなあと漠然と思っていた。(コイカクシュサツナイ岳やイドンナップ岳も興味はあるが、こちらは自分に無理そう)
前日に東大雪ビジターセンターで話を聞くと、「推奨はしていないがみなさん登っていらっしゃいます」という「どっちなんじゃい!?」と返したくなるお言葉である。(実は昨年も聞いたのだが答えは同じ) でも、Twitterやヤマップなどでも登山の報告が出てるし、そこそこ人気の山のようだ。きっと自分一人じゃないと信じて行くことにする。
27日朝、東大雪ビジターセンターの駐車場を出発し、登山口に車で向かう。今日はコースが長いので4時半にスタート。道路わきの駐車スペースから林道を200mくらい歩いてから沢沿いのコースに入る。こちらのコースはCompassには出ていないがYAMAPにはしっかり載っているという何とも扱いに困る道だ。(自分は無料であるという理由でCompassユーザー) でも、事前調査でこちらのコースは地元の方が草刈りしてくれてるようなので林道ではなくこちらをチョイス。実際に歩いてみると、しっかり整備された平坦ルートで、林道のように大きく迂回することもない。こちらで良かったのだ。入り口で出会ったカップルよりも先にスタートしたので今日は自分が歩き初めだろう。蜘蛛の巣攻撃を受けないことを祈るばかりだ。



道はしばらくするとちょっとだけ旧な斜面を斜めに登り、再び林道に出た。ここからが本来の登山ルートというわけだ。時刻は5時30分。林道が閉鎖されたために片道1時間のロスになるんだな。
登山道に入ってしばらくすると「最終水場」がある。ここまで水場がなかったので「最終」ではなく「唯一」だろうがと毒づきたくなるが、少なくともこの先に水場がないことは間違いない。ここでしっかりペットボトルと胃袋に水を蓄えていく。そしてこれからの水分補給計画は、この水場に戻るまでを考えれば良いということだ。3リットル以上持っているのでおそらく大丈夫だろう。


このコースの序盤は、尾根に向かってまっすぐに登るので勾配は急だ。笹藪だらけで手入れがされていなければ大変な道だったろう。しっかり草刈りしてくれた地元の皆様(山岳会の方かな)に感謝したい。少し残念だったのは、斜面の上の方はまだ草刈りが終わっていなかったこと。一部軽い藪漕ぎ区間もあった。(これは苦情ではない。ここまで整備してくださったことに感謝しかない。自分が行く日にはめでたく草刈りが完了しているなどという都合のいいことはないのだという確認である。)

6時50分、ようやく尾根に辿り着いた。ここからは緩やかな尾根道を軽やかに歩くの・・・おや?・・けっこうな登り返しがあるぞ。後に地図で確認したら40m程度下るだけなのに、ずいぶんと損した気分になるもんだな。こういう気持ちが芽生えるということは結構疲れていたんだろう。それでも心配した空は雲が切れて青空が広がってきた。うん、今日登って正解だったなあと足取りが軽くなる。(それが誤解だったことに気づくまで残り3時間)

8時30分頃だったか、閉鎖されている短縮ルートの分岐の手前で近くの木がガサガサと大きく揺れて大型動物が動くのを感じた。音の動きからすると自分に驚いて逃げたようだ。少し歩くと獣の匂いがぷんぷんする。そこそこ風があったのに、風下の方でガサガサ聞こえたにも関わらずけっこうな匂いだ。きっと直前まで登山道付近にいたのだろう。実際に彼が何者なのかはわからないが、クマさんかシカさんのどちらかだろう。自分の感覚では飯豊山の途中で体験した音と匂いに似ており、クマさんだったのだろうと判定。でも自分から逃げたとすればバッタリ出会わない限りパンチを受けることはないだろう。ということで音そのものにはびっくりしたが、それ以上の危機感もなく先に進む。





9時20分、糠平富士に到着。この登山の大きな目的が、「ウペペサンケからニペソツ山を望む」ということで、ここまで来れば目の前にニペソツちゃんがお出ましになる筈だった。しかし残念なことに雲が立ち込めて視界が悪い。なんとかウペペサンケまでの往復のどこかで顔を出してほしい。そう願い、休憩もそこそこに先に進むことにした。



ニペソツ山から見たウペペサンケ山は、糠平富士からは台地状に見えていた。それで、なんとなく美ヶ原的な、いや、そこまで広くはなくてもせめて荒船山的な高原状の道をイメージしていた。それが来てみると結構切り立った稜線である。高所恐怖の自分が行ってはならないエリアといえる。実際かなりビビりながらへっぴり越しで進んだ。それに加えてそこそこの登り返しがあって予想以上に大変だ。それでも泣かないで歩き通せたのは、もしかしたら霧と雲で下界が見えないのが良かったのかもしれない。
コースタイム40分程度の道を1時間かけて、10時30分、ウペペサンケ山本峰に到着した。視界は相変わらず悪く、風も強くなってきた。先の西峰まで行こうかとも思ったが、「11時過ぎたら先に進まない」という自分ルールギリギリになる。おまけに結構な登り返しもあるので、本峰をゴールとする。(地図を見ると30mくらいの登り返しなのに、すごい高度差を感じるのは何故なのだろう。)
15分ほど本峰で粘ったが天気は益々悪くなってきた感があるので、おとなしく引き返す。再び切り立った危険な尾根道(当社比)を越えて糠平富士に戻った時は正直ホッとした。ここからは転落するような場所はない。
結局、最後までニペソツ山の勇姿を拝むことは叶わなかった。残念だがさっさと戻ろう。尾根道は強ビュービューと風が吹き、時々雨も降ってくる。往路で獣臭のした区間は「まだこのへんにいるのか?」と思わせる臭さが残っている。あまり心地よいとは言えない帰路だったが1時半には取り付きまで来た。ここまで来ればあとはゆっくり下るのみである。尾根から風下に下がり森林に入ったこともあって風はなくなった。1時間ほどで「最後の水場」に到着し、再び胃袋に補給。水は軽量化を図るため1リットルだけにした。(いざとなったら川の水がある。)

15時30分、駐車スペース到着。朝に一緒だったペアの車はすでになく。山ですれ違わなかったので、途中で撤退したのだろう。この天候ならそれが正解と言える。また、車が無事に無くなっているということは、尾根道でクマパンチを受けるような事故もなかっただろう。とりあえずお疲れ様でした。
かなり寒かったので、糠平温泉の「糠平館観光ホテル」という大きな施設の日帰り温泉に入り、本日の活動は終了。天気は悪かったが、これはこれで良い思い出にしよう。

糠平館観光ホテルのリンク
http://www.nukabirakan.com/

