初日(20日)神威山荘からペテガリ山荘まで

 18日の夕方「道の駅みついし」に移動し、神威岳の疲れを取るべくゆっくり休む。翌日もダラダラとコインランドリーで洗濯したりなどして過ごした。次のペテガリ岳は超ロングコースであり、体調万全でないと達成しないと思われる山である。連続して登るなどという危険なことはしない。

 ペテガリ岳へのルートは、神威岳の登山口でもある神威山荘付近がスタートになる。20日の朝、再び神威山荘の手前まで来た。林道の脇道の手前に車が一台停めてあり、その横に駐車。準備をしていよいよ出発だ。時刻は7時45分。今日はペテガリ山荘まで行けば良いので慌てなくても大丈夫だ。脇道を下るとすぐにニシュオマナイ川が現れる。渡渉した先には峠までの沢道がある筈だ。よし、赤いリボンも見つけた。
 道はイメージしていた方向とは逆の、下流に向かって進んでいる。ちょっと変だが道はしっかり続いているのでそのまま進む。しばらく行くと、右に細い道が分岐しており、さらに今度は上流に向かっている。なるほど、一度高いところに巻いてから進むのね・・・しかし、道がだんだんおかしくなってきた。不安になって一度川まで戻る。他に道らしいものはない。もう一度行ってみるか、いや、どう考えてもおかしい。

 ここでスマホのGPSで場所を確認すると、ルートはずいぶん上流のようだ。これは沢沿いに行けということなのかと、しばらく川の中をジャブジャブ漕ぎながら進む。そして、見つけた。正しいルートに出てみると、その場所から林道に道が切れているではないか。どうやら自分はひとつ手前の脇道に入ったようだ。この、正しいルートをみつけた時点で8時45分。実に1時間ロスしたことになる。

間違って手前から入り、川をジャブジャブ登ってます

 ミスの原因や復帰方法など課題は山ほどあるが、1番のミスは最初の脇道を「これだ」と勘違いしたこと。神威山荘まで行ってから戻れば正しい脇道も見えたし間違うこともなかっただろう。

 時間をロスしたが、今日は焦る必要もない。ピンクのテープを見逃さないように沢沿いの道を歩く。その沢がだんだん狭くなり急になり、場所によっては水の中に入る。そんな沢も最後はなくなり、ロープの付きの急斜面をよじ登ると、今日の最高点だ。時計は10時過ぎ。ここからは峠を下り、もうひとつ向こうの川沿いに歩くことになる。

峠を越えます

 下りの最初は壁のような急斜面でドロドロだったが、ロープを頼りに転ばずに済んだ。斜面はだんだん緩くなり、大きな谷に出る。あとは下流にどんどん歩く。最初は植林した苗木の間の細い道だったが、やがて車も通れるような大きな道に出た。
 しばらく歩いていたら、おじさんが一人、道路の真ん中に座って休んでいた。何日か山荘で過ごして今日戻るという。このおじさんはアイヌの遺構を探していろいろな山に入っているそうで、正規のルートとは無関係の林業者の通路から獣道まで歩いているそうな。もはや仙人の領域です。

 今日の天気は非常に良い。神威岳からまっすぐ来ていれば今日は山頂だった筈。無理して昨日入ればよかったかなと少し後悔するが、今となっては仕方がない。今日は、明日晴れてくれよと願いながら林道を歩くだけだ。

峠を越えればあとは長い平坦地
協力金500円×2日分

 12時、ペテガリ山荘に到着。小屋の前の休憩スペースに、一昨日に神威山で会ったお兄さんがいた。今回は釣りに来ただけで、山に登らずお昼過ぎには戻るという。いろいろな人がいておもしろい。

 山荘の2階に自分の陣地を作り、外で昼食をとりながらぼーっとしていると、夫婦と男性林道からやってきた。明日のペテガリ山は自分を含め4人が挑戦することになる。一人でなくてほっとした。

 夕方もかなり遅く、ぼちぼち暗くなってきたなという午後6時頃、神威山ですれ違った年配のご夫婦が下山してきた。かなり大変だったようだ。明日はいよいよ自分の番か。どうか晴れますように、そしてどうか自分が元気いっぱいでありますように。

2日目(21日)ペテガリ岳往復

 昨夜、翌日に登る4人で「何時にスタートするか」「水はどれくらい持っていくか」などと話をしたが、ソロのお兄さん(といっても40歳くらい?)は「自分は水をほとんど飲まないので、まあペットボトル1本くらいかな」と言い出して絶句した。おいおいそれじゃ危険だろうと思うが、昔からそうで、友達からも「ラクダ」と呼ばれていたとのこと。つくずくいろんな人がいるなあと感心するとともに。これだから人の言うことを鵜呑みにしちゃいかんと再確認する。自分はしっかり5リットル持って上がるのだ。

 午前4時、ペテガリ山荘をスタート。かなり早いがこれも仕方がない。なんと言っても今日のコースタイムは14時間あまり。4時に出ても夕方6時になってしまう計算だ。あまり早いのはクマの心配も出てくるが、水のいらないお兄さんがもっと早く出発したので何となく安心感がある。

草刈りしてくれてありがとうございます
天気良し
今日はマメにエネルギー補給

 道はほんの少し沢沿いを歩くが、あとは山を反時計回りに巻きながら高度を上げていく。道は想像以上に歩き易い。どうやら地元の山岳会が下草刈りをしてくれたようで、本来なら藪であろう山の斜面が、登山道だけ綺麗になくなっている。神威岳に比べると道そのものの難易度はあまり高くない。しかしこちらは長い。とにかく長いのだ。道の状態が良いくらいで昇り易い山になどならないのだ。とにかく引き締めていこう。山頂までのコースは、一度1000m付近まで登ると、地形図で見えるだけで5ヶ所の小ピークを越えながら少しずつ高度を上げ、最後は500mの直登となる。小さな登り返しでどれだけ体力を温存できるかが鍵となろう。

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 5時30分、最初のピークに到着。コンパスのコースタイムなら6時半の予定なので、0.6倍くらいのペースで来ている。そんなに焦ったつもりもないが、とにかくここでしっかり休憩だ。一度リュックを下ろし、しっかり水分と捕食をいただく。雲はほとんどなく、遠くにしっかりと山頂が見えている。よしっ、今日は素敵な景色が楽しめそうだ。

途中で水をデポ
前方に最後のピーク

 幸い小さな登り返しはそれほど厳しいものではなく、3つめのピークに来たのは6時半、まだまだ予定より早いペースで進んでいる。ここでおそらく菅理者の作業用品ボックスを発見し、その裏に1.5リットルをデポする。リュックが少し軽くなり、気分も良い。その後も少し休んでは水と補食を取りながら最後のピークについたのは8時半だった。そして最後の直登。ここからは下草刈りは行われていないようで、ちょうど神威岳の山頂部のように木の枝をかき分けて進む。このあたりで先行するお兄さんとすれ違った。聞けばまだ水を一滴も飲んでいないと。常人には信じ難い特異体質のようだ。

最後のピークを過ぎたら山頂まで一気の登り
登りにくい
看板の字がかわいい

 最後の登りはバテバテになったが、10時ちょうどに山頂に着いた。片道6時間なら復路はこれほどかからないだろう。どうやら4時前には下山できそうだなと計算し、頂上でしばらくゆっくりする。多少雲が湧いているものの、日高の分水嶺が遠くまで望めて良い。この先のどれかが来月予定しているカムエクなのだろうが、残念ながら同定できない。

 休んでいるうちに、若いカップル(40代?)が登ってきた。少しだけ話をして、先に下山開始。再び藪をかき分けながら進む。
 山頂から高度で200m下りたところで、鳴っているラジオを見つけた。おそらく上のカップルが落としたものだろう。ここでどうしたら良いか迷ってしまう。大声を出せばかろうじて聞こえるだろうが、「ラジオ見つけたぞ、ここに置いておくそ」という細かな意思伝達は難しい。登り返して届けようかとも思ったが、体力を無駄に消費するリスクも無視できない。そのまま置いて行こうか、でも途中で電池切れになったら、狭いハイマツの薮の中、見逃しそうな気もする。ここで待っていようか。でも1時間以上待たされたら今度は帰り時刻が気になる。

 結局、ラジオを持ってゆっくりと下ることにした。若いカップルはそのうち追いつくだろう。そこで渡そうと判断し、速度を緩めながらも下山を続けた。幸い、直登を降り切る前に二人に追いつかれ、ラジオを返すことができた。しかし、あの場合どうするのが正解だったのだろうか。今も答えが見つからない。

 復路はさすがに疲労が蓄積し、くる時はなんてこともなかった小さな登り返しのひとつひとつが壁に見えるから不思議だ。ぜーぜー言いながら登り下りを繰り返し、真ん中のピークでめでたく水を回収し、所々で補食をしっかり取り、なんとか最後の下りに突入した。ここまで来れば遭難はないだろう。転倒滑落しそうな場所もないし、もし事故があるとしたら、クマか心臓発作か脳内出血か何かだろう。

最後の下り ここまでくれば大丈夫

 15時、ペテガリ山荘到着。結局11時間で戻ることができた。よく頑張った自分。

 この日の夜は、今日登った4人に、明日登る人々が小屋泊となる。ほとんど暗くなってから到着して2階にきたご夫婦の一人、女性の方がかなり咳き込んでいた。どうやら風邪を引いたらしい。一晩中ゲホゲホやってたので明日が心配だ。こちらも咳の音で熟睡できなかったが、明日は戻るだけなので問題はないだろう。

3日目(22日)ペテガリ山荘から駐車場まで

山荘前の広場 

 4時あたりから小屋の中はガサゴソと出発準備が始まり、一人また一人とペテガリ山頂に向かっていった。前夜からゲホゲホと咳き込んでいた女性は、「大丈夫です」と言って6時少し前にスタート。体調悪い上に出発も遅くて大丈夫だろうかと心配になるが、その方の経験値や力量を知らないので制止もアドバイスもできない。「気をつけて」と声をかけて送り出すのみである。(その後、遭難したというニュースもないので、山頂まで行けたかどうかはともかく、無事山荘に戻ったのは間違いあるまい。)

前日にクマの目撃情報があった地点(今日は大丈夫でした)

 今日は特に急ぐ必要もないのだが、だからといって長く居座る理由もなく、6時過ぎに出発。峠への取り付きまでは平坦な道を歩くだけになる。ひとつ心配なのは、昨日来たグループの何人かがクマを見たということ。それが、平坦地の終点付近だ。きれいに植林してあるその区域には7時過ぎに着いた。とりあえずここだけはスプレーの安全弁を抜いて手に持って進む。幸いクマの匂いも糞も本体もなく、無事に通過。7時50分には峠に向かう急登を登り切り、あとは下りだけになった。ここで、腰の後ろ側でチクっと何かが刺さった感じがした。ここはリュックがあるから蜂のわけないよな。何だろ。ちょっと気になって手をつっこんでポリポリ掻いてみる。特に虫などがヒットするわけでもなく原因は不明だ。でも、何かが刺さった、または食われたのは間違いない。なんとなくヒリヒリするような気もしてきたけど、歩行に支障はないので坂を下り、沢沿いの道をピンクリボンに連れられて進む。

 9時20分、ニシュオマナイ川にやってきた。ここは初日に変な場所から入ってしまい、無駄な沢登りをした場所だ。今回はすんなり向こう岸まで渡渉し、そこから先に続く道を登る。そうそう、ここですよ正しい道は。

 下に正しい道と私が間違った道の写真を並べておきます

見分けがつかんじゃろが(神威山荘まで行ってから戻ると間違いないだろう)

 9時30分、自動車まで戻った。車も無事だ。つまらないミスもしたが、まずは無事に3日間の山行を終えることができた。

 その後、再び「道の駅みついし」まで出て風呂に入った。服を脱いで腰を見たら赤く腫れ上がって「うわーっ」と声をあげてしまった。ダニか毛虫か何かなのは間違いない。でも自分もポリポリ掻いちゃったし、腫れの原因が虫の毒なのか爪の物理攻撃なのか判然としない。医者に診てもらいたいが生憎今日は日曜日。とりあえず風呂の後、浦河まで出てツルハ薬局で薬を買う。腰を見せたら店のお兄さんも「うわー」と声をあげ、ダニを含む虫刺されに効く薬を勧めてくれた。今日はこれを塗って凌ぎ、明日は医者に行こう。

 この日は「道の駅大樹」に泊まり、翌日は「道の駅南ふらの」で旅行中の友人と会ってプチ宴会をした後、24日に旭川の皮膚科で診てもらった。荒れてるけど心配いらないという見立てで、一応薬も出してもらったが大丈夫そうだ。しかし、これとは別に、なんだか熱っぽくなってきたので、旭川のホテルで2泊して英気を養うことにする。

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