自分が使っている「JTB大人の遠足Book 日本三百名山」によれば、神威岳は「レベル上級 コースは沢登りの要素も含まれ、また、急勾配の長い登りが続くため、強い体力とルートファインディング技術が要求される」山である。そろそろ5年になるが、まだまだ技術も体力も初級クラスの自分が挑戦して良いのか自信があるわけではない。少々怖い気もするが、「ダメなら引き返す」という事をしっかり守り、まずはトライしてみる。

 14日に大千軒岳に登り、そこから3日かけて日高に向かう。急いで行かないのは天気があまり良くないから。これから数日は雨で、急いで向かってもどうせ登れないだろう。それなら大千軒岳の疲れを取りながらゆっくり進もう。

 16日の夕方に直近の「道の駅みついし」で休み、17日の早朝に登山口である神威山荘に向かった。山荘までの道は未舗装の林道だが、道そのものは綺麗だった。どうやら登山シーズンに合わせて道を重機でならしてくれたようだ。6時前に無事山荘到着。数台の車があり、山荘に泊まった人もいる。山荘から出てきた人(昨日登った)に聞くと、雨の影響で増水していて厳しい場所があり、結局山頂まで行きつかず引き返したという。天気予報は曇りで、雨の心配はなさそうだが、とりあえず今日は見送ることにする。7時過ぎにやってきた若いカップルは準備をして登って行ったが、若くない自分は一度海沿いの町に戻ることにする。山荘で待機も悪くないのだが、電波が届かず天気予報などの情報が入らないのは少々不安だ。この日は襟裳岬を普通に観光して1日が過ぎた。

 18日、「道の駅みついし」から再び林道を走り神威山荘へ。天気は昨日と変わらず曇りだが、1日延ばした分水量も減っているに違いない。車が何台か泊まっていて、おそらく山荘泊の何人かは登り始めているだろう。よし、行こう。

 6時ちょうどに出発。コースタイムが8時間半で、これが東北の山なら5時くらいにはスタートしたいが、何せヒグマが怖いのでしっかり明るくなってからの出発にする。これでも3時くらいには戻れる筈だ。最初はちょっと広い道を沢に向かって下りていくが、初っ端から道を間違った。沢の手前に道があり、しっかりピンクテープもあるから信じて突っ込んだら途中から藪になってしまった。引き返して沢に降りると、沢を渡った先に道があるじゃないの。いったいさっきのリボンは何だったのだろう。少し時間をロスしちまった。

こっちでいいんだよね
ここか?

 道は沢沿いだったり少し高く巻いたりしながら上流へと進む。道が不明瞭な部分があり、行っては戻りを繰り返したところもあってスムーズに進まない。沢をそのまま進んで良いのか巻道があるのかはっきりせず、途方に暮れて「もう戻ろうかな」と思ったりもした。こういう道迷いは、けっこう手前でリボンを見逃していて、その先の、どちらも正解でない選択肢を選べないでいることが多い。少々苦しくても不安になったら戻るというのはやはり大切なことだ。

 沢登りの大変さに加えて、水を4リットル持っているのでリュックが重い。いつもよりスピードが遅いなあと感じるが、この時点で疲労は感じていない。おそらく初めての環境で緊張していたのだと思われる。

 8時20分、ようやく沢の終点に来た。コースタイムより20分遅いが、20分以上道迷いでうろうろしているので、歩くペース自体はコースタイムよりやや早いくらいか。コースとしては3分の2まで来ているが、ここから750mの登りがあるので時間的には半分あたりだろう。11時くらいには山頂に着くのではないかと計算し、進むことにする。ここで沢靴を脱ぎ、登山靴に履き替える。同じ場所に沢靴が3人分るので、この先に3人いるということだな。これは心強い。

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この大岩(赤の矢印あり)から尾根に入る
沢靴デポ

 尾根伝いの道はかなり手強い。危険箇所はないが体力を削られる急登が続き、おまけに笹藪の深いところもある。沢沿いの道から一転して視界が悪くなり、クマの心配も出てきた。(実際にクマのリスクが高くなってるかそうでないのかは不明。自分の気持ちとしてビビり始めたということ)笹をかき分け、大汗をかき、水をがぶがぶ飲みながら進む。
 急登の途中でシニアの夫婦とすれ違った。さらに少し登ると男性が一人、ここから先に人はいないのかとちょっと寂しくなったが、ようやく上りも緩くなりかけたあたりでもう一人と出会ってギョッとした。聞けば彼が最後だということで、ここから本当に誰もいない筈だ。森林を抜けて低木で視界が良くなり、山頂がハッキリ見えてきた。しかし腰くらいの高さのハイマツの枝をかき分けるのが一苦労で、これにもずいぶんと体力を削られた。何回か激しいビンタも食らってしまった。

尾根を登る
クマ、出るなよ
山頂

 11時10分、登頂。ほぼコースタイムくらいで来たようだ。残念ながらガスで視界はほとんどない。少々寒いので雨具を羽織り、カップラーメンを食べながら少し休憩。あとは一度通って知ってる道を、今度は下れば良い。とりあえず熊に遭遇したり転落転倒しなければ無事に辿り着くだろう。ここで慌てて下山する必要はない。まずはおめでとう自分。ヤマップやヤマレコなどのサイトで何度も見てきた青い看板の実物を見ている自分を褒めてあげよう。

山頂、寒い

 11時40分、下山開始。最後まで眺望は望めなかったが満足だ。再びハイマツと格闘し、笹藪を漕ぎ、尾根道を下る。尾根では急登を4回すべって尻餅をついた。もともとバランスも悪いが疲れてきているのがわかる。途中で若い人が登ってきたが、元気そうなのできっと大丈夫だろう。
 13時10分、沢に出た。ここで再び沢靴を装着する。下に降りてきたら少々暑くなってきて、持ってきた水もほとんど底をついた。沢の水を汲んで浄水器にかけて1リットル作り、ついでに補給食もたっぷり食べて、再び元気になって下る。元気といっても沢下りなので意識してゆっくり歩くことにする。

 かなりゆっくり歩いたので、山荘についたのは15時40分だった。下山してしまうと何故か青空でちょっと悔しいが、山の方を見るとやはり雲がかかっているようで、あのまま山頂で待機してもダメだったのだろう。時間はかかったがとにかく無事降りてきた。

 体力のある人ならきっと山荘に泊まって明日はペテガリ岳に向かうのだろう。実際、途中ですれ違ったご夫婦も「明日からペテガリ行きます」と言ってた。でも自分は無理しない。一度町に戻り、ゆっくり風呂に入り、しっかり洗濯してから出直すことにする。

登頂祝い
風呂っ!!!
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