世界遺産の知床に来たら、まずは海から半島を俯瞰する観光船ツアーは欠かせません。
もうひとつの大きな目玉が、知床五湖のトレッキングツアーです。
でも、今は熊の活動真っ盛り。
無事にツアーを終えることができるでしょうか。
目次
ツアーの申し込み
ツアーは、原則として事前申し込みになります。
空きがあれば現地で申し込みも可能ですが、ハイシーズンはほぼ予約で埋まっているので、きちんと予約した方が良いでしょう。ツアー料金は、全て回るコースで5000円です。
前日の夜、ネットでツアーの申し込み。
ガイドさんの写真を見ながら、「この人は強そうだな。熊に勝てるかな。」などと根拠のない基準で検討します。
結局、ツアー開始時間と人の良さそうなガイドさんの写真から、9:40スタートの会を申し込み。すると、1時間くらいで携帯に電話が入りました。ガイドの梅林さんです。
当日は雨も予想されるため雨具があれば準備してほしいこと、熊はにおいに敏感なので、食べ物の持ち込みは厳禁で、飲み物も水かお茶にすることなど、簡単な注意を受けて電話は終わりました。
糖分のある飲み物もダメなんだ・・・
この時点でかなり緊張です。
夕食はカツ丼にしたものの、翌朝は臭いのすくない(ような気がする)野菜サンドにしよう、今夜から飲み物はお茶だけにしよう、デザートはやめようと、まるで健康診断前みたいにいろいろ考えちゃいます。(実際は、ここまで徹底しろとは言われてません。)
ツアー当日の朝
宿泊地のウトロから車で30分足らず、知床五胡フィールドハウスに到着。
(駐車料金は500円)
「20分前に来てください。」と言われていたけど、1時間以上前に到着。
ハウス内の案内やおみやげを見ます。
天気は残念ながら雨。
ちょっと景色は望めない感じ。
フィールドハウスの係の方に、「雨天時のキャンセルや時間の変更は可能ですか?」と聞いてみる。「雨でもガイドはいろいろとおもしろい話を聞かせてくれますから、それなりに楽しめますよ。」という曖昧な返事。
まあ、山の天気ですから、雨なら雨で仕方ないし、キャンセルする気もないですが。
ガイドさん登場
9時少し前にガイドの梅林さんが登場。
雨でルートが冠水してる場所があるので、長靴をレンタルしてくれるという。
一応ゴアテックスのトレッキングシューズだけど、ここは指示に従おう。それに、長靴で行くとうことは、そんなに上り下りがないということか。これは良い情報。
ツアーのメンバーは9人。(定員は10人)
「どちらからですか?」くらいのあいさつを交わして、まずは7分間のビデオ学習。
○クマと遭っても騒いだりして刺激しないこと。
○走って逃げても勝てないし、逃げると追ってくる。
○とにかくガイドの指示に従うこと。
○襲われたら、防御の態勢をとること。
ここのビデオでも、かなり緊張が高まります。
突然のツアー中止
ビデオが終わり、部屋が明るくなってガイドさんが再び入室して一言。
「ビデオご覧になりましたね。それでは早速行きましょう!と言いたいところなのですが、先のグループがクマに遭遇したため、ツアーは中止になってしまいました。
ツアーが中止になると、2時間はコースを閉鎖するというルールがあり、午前中はもはや実施は不可能です。梅林さんの担当する13時のツアーに空きがあり、そちらに回ることが可能ということで、時間変更になりました。
一緒だったみなさんのほとんどは、次の行程に影響がでるので断念し、5000円の返金を受け取り、帰って行きました。せっかくここまで来たのに残念です。
ここ数日は、毎日のようにツアー中止の措置が続いているとか。午後も結局中止になる可能性があります。まあ、それならそれで仕方がない。
(実はこの時、ツアー中止で少しホッとしている自分がいました。「助かった・・」
でも、これまでツアーで事故は一件もないそうです。ご安心を。)
知床自然センター
3時間のゆとりが出たので、ツアーの必要がない木道を散策し、一湖まで行ってみる。ここまでは高架木道です。しかもクマが這い上がらないように電気柵も設置してあります。雨で景色は霞んでるけど、とりあえず一湖は見た。(この時点では、午後も中止のつもり。)
そして、車で10分ほど戻り、知床自然センターの見学。
ここからは、往復1時間程度でフレペの滝まで行くことができます。でも、雨で視界も悪いので、おとなしくセンターの展示を見て、知床の映像を鑑賞しました。
この映像の画面がおそろしく大きく、かなり大型の映画館に匹敵します。20分番組ですが、まずまずでした。
そして昼食。
午後も中止になる気満々なので、食事も深く考えず「ガパオライス」。
辛くて美味かった。
午後のツアー開始
12時半に再び五湖フィールドセンターに到着。
その後、クマの出現はなく、ツアーは実施されることに。
しかも、11時半から閉鎖を解いてツアーが成立したものの、昼前後はツアーがなく、我々のグループが午後のスタートとなります。
ガイドの梅林さんも、
「2時間近く人が通ってないから、最後までたどり着けるか心配です」
もちろんそれは、クマの餌食になるという意味ではなく、クマと遭遇して引き返すことを意味します。梅林さんは淡々と、「五湖が見えて戻ったら3000円、四湖までは2000円の返金です。三湖まで行けたら、返金はありません。」
気持ちはもはやクマ牧場の檻の中に突入する気分です。
ガパオライス、口から匂いでてないかな・・・。
でも、ひとつ良いことが。
午後になって天気が回復してきたのです。
雨雲と霧のため、山は見えません。それでも雨でないことは幸運です。
今回のメンバーは5人。
ガイドの梅林さんの後に続いていよいよコースへ。
びくびくびく・・・
梅林さんは、所々で手をパンパンと打ち、「はいっ、はいーーーっ!」と声をあげながら進みます。クマに人間の存在を知らせるのだそうです。クマ鈴をつけてる人には外してもらっています。「クマの存在をいち早く察知するため。」だそうです。
(いち早く察知できない普通の人だけなら、クマ鈴つけた方が良いですね。きっと。)
「熊はどんな返事するのですか?」と聞いたら、
「返事する時は、かなり危険な時です。」とのこと。
聞きたくない・・。
梅林さんの話は、とっても興味深く、面白い。クマの習性から植物、鳥、地質的な成り立ちまで多岐に渡ります。これだけの知識を得るのにどれくらいかかるだろう。この人ならきっとクマが出ても冷静に対処してくれるだろうと、だんだん信頼が増してきます。
とても良いガイドさんに当たりました。
(もちろん梅林さんしか知らないので、他のガイドさんとの比較はできません。厳格なガイドのライセンス基準とテストもあるそうですから、きっと誰に当たっても大丈夫とは思います。)
ツアーは順調に五湖、四湖と進みます。
(5、4、3、2、1と、数字の逆ルート。)
なんでも水芭蕉の根がクマの食料で、今がその最盛期で食べ物が豊富だとか。
ルートの中の水芭蕉群生地は要注意です。
またこの時期は繁殖の時期でもあり、母子熊は、(子供への)オスの攻撃から身を守るため、人間がうじゃうじゃいる五湖周辺にくるらしい。すると、それを追ってオス熊も。だからこの時期、知床五湖には信じられない数のクマがいるのだそうです。
あまり聞きたくない情報だな。
何とか三湖、二湖と通過し、ようやく1湖を残すのみになった時、一湖の木道に熊の親子が出現という情報がトランシーバーに。
もし、ツアーの最中にクマが出て中止になった場合は、クマから離れる方向に移動して安全を確保するのだそうです。その場合は案内や説明をしないでひたすら移動するというルールにもなってます。もし、ルートの最後に遭遇した場合は、来た道をひたすら戻るとか。
クマ出現地点はこれから行くところ。
「ここまで来て戻るのはいやだ。クマにお願いしてどいてもらおう。」などと冗談を言う人もいますが、心の中は「もし引き返すことになり、そこでまたクマに遭って挟みうちになったらどうしよう。」と、ネガティブ悲観的なイメージしか湧きません。
その熊は、ルートとは別の方向に移動したという連絡が入り、ツアーは続行。
大きな水芭蕉群生地も全て通過し、電気柵のある木道までは残り10分足らず。
やれやれ・・・。
ここで、再びトランシーバーにクマ情報が入ります。
「第○○班、スタートしてすぐにクマに遭遇。ツアーを中止し、引き返します。」
続いて本部から、
「ルートは閉鎖。ツアーは中止になります。遭遇地点はスタート地点と五湖の間です。各グループともツアーを中止し、気をつけて戻ってください。」
梅林さんによれば、「今情報入れたガイドさん、新人なんだけど、なぜかよくクマに遭うんですよね。」
梅林さん自身は、「昨年はクマ遭遇率トップに近かったけど、今年は不思議と会いませんね。」とのこと。
「クマに飽きられたんじゃないですか?」
などと冗談をいいながら、一行はついに木道へ到着。
「ここまで来れば、ツアーの中止も何も関係ないですから、ゆっくり行きましょう。」
最後に一湖で記念撮影をして、ツアーは終了しました。
ツアーを終えて
はじめはかなりビビっていたツアーでしたが、ガイドさんの指示を守り、きちんと行動すれば危険は回避できるのだと理解できました。
午前の中止も結果的には幸いし、時々雲も晴れて山もちょっとだけ見ることができ、ガイドさんの話にも引き込まれ、とても充実したツアーになりました。
ツアー終了間際に中止の連絡が入るなど、運にも恵まれました。
6〜7月は熊の活動期で、ガイドツアーでないとコースに入ることはできません。他の時期ならガイドなしで入れるのですからお金はかからないでしょう。でも、一度はガイドさんの説明を聞きながら歩いてみることをオススメします。
もし、もう一度ここに来る機会があれば、その時は雲ひとつない青空の下で歩きたいものです。