10月17日(水) ダブリン
今日は一人行動です。
一時離脱する前、2週間ほど前の話。
「ダブリンはどうする?一緒に行ってもいい?」という申し出を受けました。
その時、私はこう返事をしています。
「僕はこの本(ユリシーズ)を読んでダブリンに臨んでいる。この小説の舞台を周るのが僕のテーマで、いっさい妥協はしないし自分のペースに合わせてもらう。昼食もきちんととるつもりもないし、かなりハードな1日になるだろう。そもそもこの小説を読んで興味がある人でないと、見学地そのものがつまらないかもしれない。それでも一緒に来るなら歓迎するけど、よく考えて決めてほしい。」
(箇条書きにすると冷たいけど、実際はもっと優しく言ってますよ。)
結果、一緒に来るという申し出はゼロでした。
ホッとした半分、寂しい半分です。
いずれにしても、今日はお一人様行動。(これが自分に合ってるような気がする。)
船は9時に着岸し、9時半くらいには下船の許可が下りました。
今日は帰船リミットが19時なので、早めに出られるのは幸運です。
船を降りてしばらく港湾構内を歩くと、最初の駅前にピースボートスタッフが見えます。
「駅はこちらになります。」
「いえ、僕は違う駅に向かうので、まっすぐ行きます。」
「そうですか。お気をつけて。」
スタッフの方は、きっと心配だったでしょうね。
「あのおっさん、大丈夫か?」
と思われたことでしょう。
一番に船を出て、最初に向かうのは「ジョイスタワー」。電車で20分ほどの場所。
最寄りの「The Point」という駅を通過し、運河を2度渡り、15分ほど歩いて目的の駅「Grand canal dock」に到着。切符の購入にかなり手間取りながらも何とか購入して乗車。列車は海沿いを気持ちよく走ります。ここまで来ると、ピースボートのお客さんは一人もいません。船を出てまだ1時間経ってないのに、遠くに来たような感覚になります。
「Glasthule」という駅で下車し、さらに15分ほど歩きます。ここは、ジョイスの小説「ユリシーズ」のスタートの舞台であり、ジョイスの博物館になっているところ。長らくイメージしかなかった舞台の実物が見えて来ると、やはり感動します。「きたぞー!ジョイス!ほんとに来ちゃったぞー!!」という叫びが心の中でこだまします。天気はいいし、近くの岩場では(10月も中旬なのに)泳いでるおじいさんおばあさんがいるし、異国に来た感満載です。
ジョイスタワーの管理は、かなりのお年の紳士とご婦人でした。
ジョイス協会の会員が運営してるはずなので、きっとこのお二人もジョイスファンなのでしょう。
おじさん「ようこそジョイスタワーへ。君はどこから来たの?」
私「日本から来ました。すーっとここに来たかったんです。」
おじさん「君はジョイスのことをどれくらい知ってるの?」
私「僕はユリシーズを読んで来ました。」(えっへん!)
おじさん「そりゃ素晴らしい。ゆっくり見てってね。何か質問かったら言ってね。」
このタワーは、実際にジョイスが何日か滞在したところだそうで、友達が悪夢にうなされて夜中に銃を発砲したといいます。きっとすごい音だったでしょうね。
そんなこともあり、ジョイス自身は6日間の滞在で帰っちゃたのですが。その印象が強く残ったようで、彼の代表作「ユリシーズ」のストーリーが、ここから始まることになります。
塔は、思っていたよりも小さく、小説の中のイメージを作り直す必要がありました。その発見や、管理人のおじいさんの優しさやらで、とても充実したひととき。がんばってここまで来て正解です。
ジョイスタワーを後にし、ダブリンの街に戻り、「ダブリン文学館」を簡単に見学。ここは当初見学コースに入れてませんでしたが、ジョイスつながりで行ってみました。「ガリバー」で有名なスウィフトがアイルランド人だという発見がありました。
本来のテーマに戻りましょう。
文学館の近くにある「ジョイスセンター」を訪問。こちらも「ユリシーズ」の登場人物が昔住んでいた場所とのこと。時々ジョイスの研究会や市内ツアーの企画などもやっているようです。
普通に展示やビデオ映像を鑑賞し、こちらの管理人のおじさんにも親切に教えてもらいました。
私「これから街を歩くんだけど、地図ありますか?」
おじさん「地図もあるけど、ジョイスの足跡を辿るなら、あなたはこの本を買うべきだ。こちらの本には昔の町名までしっかり書いてあるし、とても詳しい。」
彼は、私がほとんど英語を読めないことを知らない。
そもそも、つっかえつっかえの幼稚な英語を聞けば、こんな厚い本無理だってわかりそうなものです。
でも、結局おじさんの熱意に負けて、勧められた本と地図を両方お買い上げ。
あーあ、この本読み切る日が来るのだろうか。(いや、来ない!)
「ユリシーズ」の舞台を訪ねるというテーマは、1日で征服するには多過ぎます。そこで、数ある候補地の中で「スウィニーの薬局」に行こうと心に決めていました。ここは、主人公のブルームが物語の前半に石鹸を買った店です。実際にこの場所に薬局はなく、今はジョイスの記念館的な位置付けになっています。店の中はジョイスの写真や本でいっぱい。それでも、小説の中に出てくる石鹸だけが販売されているのです。
普通のレモン石鹸が5ユーロ。ちょっと高いですが、この店で買って、ズボンのポケットにつっこむところに意義があるのです。(主人公もズボンのポケットにつっこみ、物語の中盤にその存在を思い出す記述があります。)
ミーハーな私・・・。
レモン石鹸をおしりのポケットに入れて、最後は物語の終盤にでてくる酒場付近に移動。そのへんのパブに入ってビールを飲んで酔っ払って、本日の日程は終了です。
実際に訪れた場所は3箇所。いずれもピースボートの人とは会いませんでした。途中、数人の仲間に会い、「どこに行って来たの?」と聞かれて説明したけれど、「ふーん。」くらいの反応で、なかなか理解を得られなかったようです。どうみてもマイナーな場所なので、一緒に行くのをやめたみなさんは正解だったはず。私もひとりでぐいぐい歩き回れて結果オーライでした。
3箇所とも、同時にそこにいた観光客は3人程度で、とても静かなひとときであり、しかもどの施設も係りのおじさん(おじいさん)がとても親切でした。
いわゆるダブリンの名所には一切触れていませんが、自分的にはかなり充実した一日。
最後は船のそばのレストランに入って、巨大な肉をほおばりながらビールで乾杯。
よくがんばった自分!