3月15日、道の駅美里「佐俣の湯」で一夜を明かした。明けて16日は午後から雨の予報なので山に登るつもりはない。ゆっくり阿蘇の麓に行くだけだ。特に急ぐ必要もない。とは言え、あまりゆっくりするのも道の駅に申し訳ない。いつものように5時過ぎには目を覚まし、朝ごはんを食べてすぐに出発する。
道の駅を出て5分もたたないところで「日本一の石段」の表示が出てきた。10日ほど前、熊本市を通過した時も「日本一の石段こっち」という案内看板を見た。「唆るなあ、行きたいなあ。」と思いながらも、開聞岳への距離もあってスルーした。スルーしたものの、かなり気になっていた。その看板が再び現れたというのは「登っていきなさい。」という何かの神様の啓示に違いない。ナビで確認すると10分ちょっとで着く場所だ。日本一とは行っても所詮は石段である。1時間もあれば登って来れるだろう。
石段に近づくと、広い町営駐車場が出てきた。あれ?無料じゃない。とりあえず石段のそばまで車で行ってみる。石段のそばにも私営駐車場があり、こちらも300円となっている。正直言うと観光地にある私営駐車場は好きになれない。たまたまその場所に土地を持っていたというだけで、その土地に車を置かせるという材料費もかからない業務で莫大な収入を得るってずるいじゃん。でも、町営駐車場はちょっと遠いし、同じ300円だから今回は石段に一番近い駐車場に停めた。料金の300円はポストに入れろと書いてあるので、正直に入れる。
石段ということは、登った先に神社か何かがあるだろう。長い石段なら誰だって喉が渇く。自動販売機もあるはず。(頭の中は、山形市にある山寺の石段のイメージ。)コロナで観光客も少ないだろうから、ここは飲み物くらい買ってやろう。そう考えて、ポケットに小銭(合計1000円くらい)を入れてスタートする。スタート時刻は6時40分。
さすがに三千三百三十三段の石段だから、走り切るというわけにはいくまい。普通に歩いて登りはじめる。石段はそこそこ急で、しかも真っ直ぐなので若干の恐怖がある。でも、手すりもあるので問題はない。石段の傍には寄付金を出した人の石板が立ち並んでいる。家族に内緒で寄付しておいて、自分が死んだ時に「日本一の石段で私の名前を探せ」などという遺言を残してやろうかなどと、とりとめのない想像をしながら登る。5分ほど登ったら、石段が終わって平坦な参道が出てきた。しばらく歩くとまた石段。
6時47分、300段の目印に来た。ふむふむ、300段を7分で来たのね。えっと、残りが3000段あるから、、、70分。意外にかかるな。1時間くらいで戻れるだろうという当初の予想の倍以上かかる。やっぱり水、持ってくればよかったかなあと、少し後悔する。喉が乾いたわけではないが、ここまで自動販売機は一台もない。
30分ほど登ると、再び平坦な参道を歩く。ここで、石段を走る大会の優勝者の銘板を見つけた。男性だと25分前後で登り切るようだ。自分はというと、20分でやっと900段。しかもかなり疲れてきた。試しに小走りしてみるが、試すまでもなく乳酸が急激に溜まってくる。
3分の1を登ったところで、まだ自動販売機はない。所々に水飲み場があるのだが、どういうわけか水が出ない。苦しくなってきた。周りの様子を見ると、どうやら尾根伝いに参道が延びていて、急なところが石段になっているようだ。自分がイメージしていた「山の中腹にある神社までの石段」ではなく、「尾根伝いの登山ルートが石段になっている」というのが正しい。
それでも、黙って黙々と足を動かしていればゴールの瞬間はやってくるものだ。1時間が経過した時には2600段まで辿り着いた。残りが少なくなれば元気がでてくる。これは山も石段も同じこと。もう少しで山頂だと言い聞かせ、最後の力を振り絞り、7時50分に石段を登り切った。
登り切って驚いた。「西の比叡 金海山釈迦院(ぽっくり寺)1000m→」この場所がゴールではなかったのだ。ゴールしたと思ったらさらに1キロ歩けって、いったい何の罰ですか? ぽっくり寺に行く前に、この場所でぽっくり逝きそうだわい。
石段から歩くこと15分、やっと釈迦院に着いた。ここまでほぼ1時間半。自動販売機はどこにもなかったが、1200年の歴史がある釈迦院は、小さいながらも雰囲気が良く、よい登山であったと思う。(そう、これはもはや登山です。)しかし、石段のところに「西の比叡」とあったのに、釈迦院には「西の高野山」と書いてある。比叡山と高野山て、別だよね。
8時15分、釈迦院を出発。8時30分、石段スタート。下りは楽なので、ほぼランニングのように駆け下りてみる。目標は25分。つまり大会優勝者と同じ時間だ。(但し、方向は逆)
かなりのハイペースで下りたつもりだが、しっかり30分かかった。優勝者はこれより速く登り切るのかと思うと、凄まじい脚力だと改めて思う。(もちろん、大会に参加する気などない。)
今日は雨のため休養日のつもりだったが、小さな登山をしてしまった。ここからはゆっくりと阿蘇と目指すことにしよう。